ともに道を。

小学校低学年のころ、

野良犬に追いかけられたことがある。

 都会から田舎に転校して間もないとき。

転校生が非常にめずらしいような田舎だったので、やんちゃ男子たちからはちょっとしたいじめの対象になっていた。


野良犬がなぜ私を追いかけてきたかはわからない。
ガウガウガウ!
唸りながら追いかけてくる野良犬から逃げ、半泣きになりながら、ただもう、広いグラウンドを必死で走り回る・・・。

遠くから笑って見ている男子たちが、目に入る。

私は泣きながら、走る。逃げる。
広いグラウンドを、必死で・・・もう息も切れて、限界・・・。

 

誤解を恐れずに書いてしまおう。


社労士を開業してからの日々は、
この、犬に追いかけられて走り回る記憶に似ていた。

お客様に感謝されることをやりがいに、その時々、精一杯、誠実に、と思って仕事をしてきた。
でも、そのやりがい以上に、辛いことも多かった。
それまで過ごしてきた世界とはまったく違う世界の中で、もがいていた。

「1人でただがむしゃらに走り回るのは、もうやめたい。
いったん立ち止まって、自分の意志で道を切り拓いていきたい。」

そんな思いで出発した陽明学講座。

東京お茶の水昌平坂学問所跡地のそばにて、難波征男先生による陽明学講座が始まった。
第1回目は、なんと京都フォーラムの矢崎勝彦理事長も来て下さった。

誘ってくださった日比野さんと下田さんには、どれだけ感謝してもしきれない。

 

 空が広い。

いちめんに桑畑が広がる中にある、小学校の校庭。

野良犬に追いかけられた思い出のつづき。


泣きながら必死に走り、野良犬から逃げ続けていた私は、いよいよ力尽き、もう走れない。
もうダメだ。
もうかみ殺されても仕方ない。と、あきらめた。

そして、走るのをやめた。

するとそのとたん、それまでずっと私を追いかけ続けてきた犬も、

私に合わせてゆっくりと、走るのをやめたのだった。。。

 

私は、 息を切らして地面に倒れ込んだ。
顔は涙と汗でぐちゃぐちゃだ。
まわりに、男子たちが集まってきた。


「チョー笑ったぞ、お前の逃げまわるかっこう!」

という彼らの言葉とはうらはらに、

だれもがホッとしているのがわかった。

じつは彼らも、ずっと心配しながら見てくれていたのだ。

私はただ黙って、照れ笑いをした。

ズボンのおしりが、野良犬の鼻息でぐっしょり濡れて、やぶれていた。

恥ずかしいよりも、清々しかった。

そのときのいじめっ子達は、今では皆、なつかしい幼なじみたち。


「公共の学問」である陽明学は、「交響の学問」でもある。

「社労士」としての私も、ようやく響き合わせる人たちと出会えた。

私は故郷の風景を、

今の自分の世界にも取り戻していけるだろうか。